煌々と輝く巨大な太陽が荒野を焼き払う。
草の一本すらも生えない灼熱の大地ではいかなる生命の存在も許さない。
しかし、その熱波を中を一つの影が進んでいく。
厚手のコートに身を包んだその影は、ただ一つの目的の場所を目指してとどまることなく
灼熱の荒野を歩み続ける。やがて影の前に黒い切れ目が現れる。だが切れ目というには
あまりにも大きく、広く、そして深かった。
地上に穿たれたそれは、まるで空に浮かぶ太陽を映す鏡のようだった。太陽が光を生み出し
発散しているとすれば、この太陽はあらゆる光を飲み込み、閉じ込めているようにも見えた。
影は穴へと近づいていく。そして一度、深淵を覗き込んだと思うとコートをそこへと放り込んだ。
日焼けとは縁遠い真っ白な肌と黒い髪が顕になる。まだ幼さの残ったその顔には
年老いた獣のような二つの目が輝いている。
そこに宿るのは希望か絶望か……ただ長い間そこへとどまり暗闇の奥を見つめていた。
そしてその耳に聞いた。穴の奥から響いてくる、胎児の泣き声を。
――世界は異常事態を迎えていた。北半球は極寒の大地へ代わり、南半球は地上を
焼きつくすような太陽の熱と旱魃に襲われ人間を含む多くの生物が死滅し始めていた。
誰がそうしたのか、なぜそうなったのか。原因は誰にもわからなかった。
そしてきっと原因を知ったところで、もはや手が尽くせないのだろうと誰もが
察していたのかもしれない。
各国でできる対応は住める環境を新たに創造することだった。当たり前のように生活していた
場所が人の住めない土地に変わる前に、新たな居住場所を確保することは地球上に住む全人類にとっての
急務と言えた。しかしその決断を下せるのは地上で成功し大金を手にしたものだけだった。
多くの人間は、未だに過酷な環境の中で生活を続けていた……
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